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―参考―   副業・兼業

―参考― 副業・兼業

理由や形態はさまざまながら、副業・兼業を希望する労働者が年々増加する傾向にあった一方で、多くの企業が副業・兼業が認められていない実態がありました。

このような実態を受けた「働き方改革実行計画」(平成29年3月28日 働き方改革実現会議決定)において、労働者の健康確保に留意しつつ、原則副業・兼業を認める方向で、副業・兼業の普及促進を図ることとされたことを踏まえ、厚生労働省では平成30年1月に、副業・兼業の促進の方向性や、労働時間や労働者の健康確保等の留意事項をまとめた『副業・兼業の促進に関するガイドライン』を策定するとともに、併せて、モデル就業規則について、副業・兼業を原則認める内容に改定しました。また、令和2年9月には、労働者の申告等による副業先での労働時間の把握や簡便な労働時間管理の方法を示すなど、ルールの明確化を図る改定を行い、さらに、令和4年7月には、労働者の多様なキャリア形成を促進する等の観点から、ガイドラインを改定し、企業に対して、副業・兼業への対応状況についての情報公開を推奨することとしました

 この節では、副業・兼業に関わる現行の制度等を概観するとともに、同ガイドラインの内容を簡単に解説します。

1 副業・兼業に関わる現行の制度

(1)労災保険

労働者災害補償保険法(昭和22年法律第50号)の改正により、令和2年9月1日以降事業主が同一でない二以上の事業に使用される労働者(複数事業労働者)の方やその遺族などの方への労災保険給付はすべての就業先の賃金額を合算した額を基礎として、保険給付額を決定することとなりました。

また、一つの事業場の業務上の負荷だけでは労災認定されない場合は、事業主が同一でない複数の事業場の業務上の負荷を総合的に評価して、労災認定の判断をするようになりました。
さらに、一方の就業先から他方の就業先へと移動する途中で災害が発生した場合、移動先の事業場の保険関係で、通勤災害として処理することとなります(平成18年3月31日基発第0331042号)。
この場合も、通勤災害が発生した就業先以外の就業先の賃金額も合算して保険給付額を算定します。
なお、令和2年8月31日以前に発生した傷病等については、災害が発生した就業先の賃金分のみに基づき算定します。

(2)雇用保険、社会保険(厚生年金保険、健康保険)

 雇用保険の適用事業所である事業所は、その労働者が副業・兼業をしているか否かに関わらず、被保険者となる者については雇用保険の加入手続を行わなければなりません。ただし、副業・兼業のように、同時に複数の事業主に雇用され、それぞれの雇用関係において被保険者要件を満たす場合は、その者が生計を維持するに必要な主たる賃金を受ける雇用関係についてのみ被保険者となります。

 社会保険の適用については、副業・兼業を行っている労働者が、それぞれの事業所において適用要件を満たすかあるいは満たさないかによります。(※)

※ 令和4年1月1日より、複数の事業所で勤務する65歳以上の労働者が、そのうち2つの事業所での勤務時間を合計して被保険者要件を満たす場合も本人から申し出ることによって、雇用保険の被保険者となることができる制度を施行しています。
社会保険の適用については、副業・兼業を行っている労働者が、それぞれの事業所において適用要件を満たすかあるいは満たさないかによります。

ア いずれの事業所においても適用要件を満たさない場合
社会保険の被保険者とはなりません。それぞれの事業所における労働時間等を合算すると適用要件を満たす場合でも、事業所ごとに要件を満たすか判断するため、被保険者となりません。
イ 同時に複数の事業所で適用要件を満たす場合
労働者がいずれかの事業所を選択し、その選択された事業所を管轄する年金事務所(医療保険者)において、各事業所の報酬額を合算して標準報酬月額を算定・決定します。その上で、各事業主は、合算した報酬額のうち各事業主が労働者に支払う報酬額により按分した保険料を、労働者が選択した事業所を管轄する年金事務所(医療保険者)に納付することとなります。

(3)労働時間

 労基法第 38 条において、「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」と定められています。この「事業場を異にする場合」とは、事業主を異にする場合も含みます(昭和 23 年 5 月 14 日基発第 769 号)。

同項の規定にも基づく労働時間の通算方法は、原則的な方法と簡便な方法(以下「管理モデル」といいます。)の二通りをガイドラインで示しており、副業・兼業を行う労働者ごとに、自社で取り入れやすい方法を採用することが考えられます(労働時間の通算方法に関する詳細については、上記ガイドラインをご参照ください。)。
副業・兼業を行う労働者に対して、労働時間を通算した結果、労基法第32条又は同法第40条に定める法定労働時間を超えて労働させる場合には、いわゆる法定外労働時間が発生します。

(4)健康確保措置

副業・兼業を行っている労働者に対しても、一般健康診断(安衛法第66条)やストレスチェック(同法第66条の10)などを実施する必要があります。
これらの措置について、所定労働時間が一定時間未満(同種の業務に従事する通常の労働者の1週間の所定労働時間の3/4未満)の短時間労働者については、実施対象としなくてもよいとされています(平成31年1月30日付基発0130第1号/職発0130第6号/雇均発0130第1号/開発0130第1号等)。副業・兼業を行っている労働者について、この点においては、複数の事業場の所定労働時間を通算する必要はなく、それぞれの所定労働時間で判断することになります。
ただし、副業・兼業を行っている労働者に対しては、法定の健康確保措置のみならず、労使の話し合い等を通じて、副業・兼業の状況を踏まえた健康管理を行うことが望まれます。

2 副業・兼業に関する企業及び労働者の対応

(1)企業の対応

裁判例を踏まえれば、原則、副業・兼業を認める方向とすることが適当です。労働者が副業・兼業を行うにあたって、企業は以下のような事項について対応する必要があります。

就業規則等の整備
☑ 副業・兼業を禁止や一律許可制にしている企業は、副業・兼業を認める方向で就業規則等を見直すことが望ましいです。
☑ 副業・兼業に伴う労務管理を適切に行うためには、届出制など副業・兼業の有無・内容を確認するための仕組みを設けておくことが望ましいです。
イ. 労働者が行う副業・兼業の内容の確認
☑ 使用者は、当然には労働者の副業・兼業を知ることができないため、労働者からの申告等により、副業・兼業の有無・内容を確認することが考えられます。
☑ 使用者は、副業・兼業が労働者の安全や健康に障害をもたらさないか、禁止または制限しているものに該当しないかなどの観点から、副業・兼業の内容を確認することが望ましいです。
ウ(A). 所定労働時間の通算(原則的な労働時間管理の方法)
☑ イで確認した副業・兼業の内容にもとづき、自社の所定労働時間と副業・兼業先の所定労働時間を通算し、時間外労働となる部分があるかを確認します。
☑ 所定労働時間を通算した結果、自社の労働時間制度における法定労働時間制度を超える部分がある場合は、その超えた部分が時間外労働となり、時間的に後から労働契約を締結した企業が自社の36協定(詳細は「第7章 時間外労働・休日労働」でご確認ください。)で定めるところによってその時間外労働を行わせることになります。
(B). 管理モデルの導入(簡便な労働時間管理の方法)
☑ 副業・兼業を行う労働者に管理モデルにより副業・兼業を行うことを求め、労働者と労働者を通じて副業・兼業先がそれに応じることによって導入されることが想定されます。
☑ 自社での1か月の法定外労働時間と副業・兼業先の1か月の労働時間(所定労働時間及び所定外労働時間)を合計した時間数が単月100時間未満、複数月平均80時間以内となる範囲内において、各々の事業場における労働時間の上限をそれぞれ設定します。
エ(A)所定外労働時間の通算(原則的な労働時間管理の方法)
☑ 副業・兼業の開始後は、自社の所定外労働時間と副業・兼業先における所定外労働時間とを当該所定外労働が行われる順に通算します。
☑ 通算した結果、自社の労働時間制度における法定労働時間を超える部分がある場合は、その超えた部分が時間外労働となり、そのうち自ら労働させた時間について、自社の36協定の延長時間の範囲内とする必要があるとともに、割増賃金を支払う必要があります。
(B)管理モデルの実施
☑ ウ(B)で設定した労働時間の上限の範囲内において労働させます。
☑ 使用者Aはその法定外労働時間について、使用者Bはその労働時間について、それぞれ割増賃金を支払います。
オ. 健康管理の実施
☑ 労働者とコミュニケーションをとり、労働者が副業・兼業による過労によって健康を害したり、現在の業務に支障を来したりしていないか、確認することが望ましいです。
☑ 使用者は、労使の話し合いなどを通じて、必要な健康確保措置を実施することが重要です。
☑ 使用者の指示により副業・兼業を行う場合、使用者は、原則として、副業・兼業先の使用者との情報交換により労働時間を把握・通算し、健康確保措置を行うことが適当です。
カ.副業・兼業に関する情報の公表
☑ 企業は、労働者の多様なキャリア形成を促進する観点から、職業選択に資するよう、副業・兼業を許容しているか否か、また条件付許容の場合はその条件について、自社のホームページ等で公表することが望ましいです。

(労働時間の通算(原則的な労働時間管理の方法)の代表例)

  • (1)甲事業主と「所定労働時間8時間」を内容とする労働契約を締結している労働者が、甲事業場における所定労働日と同一の日について、乙事業主と新たに「所定労働時間5時間」を内容とする労働契約を締結し、それぞれの労働契約のとおりに労働した場合。
  • (2)甲事業主と「所定労働日は月曜日から金曜日、所定労働時間8時間」を内容とする労働契約を締結している労働者が、乙事業主と新たに「所定労働日は土曜日、所定労働時間5時間」を内容とする労働契約を締結し、それぞれの労働契約のとおりに労働した場合。

いずれの場合も、甲事業場において1日又は1週間の法定労働時間に達していることから、乙事業場での労働時間は法定外労働時間となります。

  • (3)甲事業主と「所定労働時間4時間」という労働契約を締結している労働者が、新たに乙事業主と、甲事業場における所定労働日と同一の日について、「所定労働時間4時間」という労働契約を締結し、甲事業場で5時間労働して、その後乙事業場で4時間労働した場合。

甲事業場・乙事業場の所定労働時間を通算した段階で、既に 1 日 8 時間に達していることから、所定外の労働を発生させた甲事業場での労働時間が時間外労働時間となります。

  • (4)甲事業主と「所定労働時間3時間」という労働契約を締結している労働者が、新たに乙事業主と、甲事業場における所定労働日と同一の日について、「所定労働時間3時間」という労働契約を締結し、甲事業場で5時間労働して、その後乙事業場で4時間労働した場合。

甲事業場での5時間(3時間+2時間)に加えて、乙事業場で3時間労働した時点で、既に 1 日 8 時間に達していることから、乙事業場での1時間が時間外労働時間となります。

(2)労働者の対応

 労働者が副業・兼業を希望する場合には、次のような事項に留意する必要があります。

ア. 副業・兼業に関する届出等
☑ 労働者は、副業・兼業を希望する場合は、まず、自身が勤めている会社の副業・兼業に関するルールを確認する必要があります。
☑ 副業・兼業の選択にあたっては、適宜企業が自社のホームページ等において公表している副業・兼業に関する情報や、ハローワークも活用し、自社のルールに照らして業務内容や就業時間等が適切な副業・兼業を選択することが重要です。
☑ 副業・兼業先が決まったら、就業規則等に定められた方法に従い、会社に副業・兼業の内容を届け出ましょう。
イ. 健康管理の実施
☑ 労働者は、副業・兼業を行うにあたっては、副業・兼業先を含めた業務量やその進捗状況、それに費やす時間や健康状態を管理する必要があります。
☑ 使用者による健康確保措置を実効あるものとする観点から、副業・兼業先の業務量や自らの健康状態等について企業に報告することが有効です。

3 副業・兼業に関する主な裁判例


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