Ⅵ 裁量労働制
Ⅵ 裁量労働制
裁量労働制とは、業務の性質上、その業務の遂行の方法や時間の配分などについて、大幅にその労働者の裁量にゆだねる必要があるため、使用者が具体的な指示をせず、労働時間については労使協定において定められた時間労働したものとみなす制度です。
裁量労働制には、- ① 新商品や新技術の研究開発その他特定の専門業務についての裁量労働制(専門業務型裁量労働制)
- ② 事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査及び分析の業務についての裁量労働制(企画業務型裁量労働制)
1 専門業務型裁量労働制
新商品、新技術の開発等の業務の性質上、その遂行の方法などを労働者の裁量にゆだねる必要があるため、使用者が業務の進め方や時間配分などについて具体的な指示をすることが困難な対象業務として、次の 20 業務が定められています(⑬については令和6年4月1日より追加されます)。
- ① 新商品・新技術の研究開発又は人文科学・自然科学に関する研究の業務
- ② 情報処理システムの分析・設計の業務
- ③ 新聞・出版の事業における記事の取材・編集の業務、放送番組の制作のための取材・編集の業務
- ④ 衣服、室内装飾、工業製品、広告等の新たなデザインの考案の業務(デザイナーの業務)
- ⑤ 放送番組、映画等の制作の事業におけるプロデューサー、ディレクターの業務
- ⑥ 広告、宣伝等における商品等の内容、特長等に係る文章の案の考案の業務(コピーライターの業務)
- ⑦ 事業運営において情報処理システムを活用するための問題点の把握又はそれを適用するための方法に関する考案・助言の業務(システムコンサルタントの業務)
- ⑧ 建築物内における照明器具、家具等の配置に関する考案、表現又は助言の業務(インテリアコーディネーターの業務)
- ⑨ ゲーム用ソフトウェアの創作の業務
- ⑩ 有価証券市場における相場等の動向又は有価証券の価値等の分析、評価又はこれに基づく投資に関する助言の業務(証券アナリストの業務)
- ⑪ 金融工学等の知識を用いて行う金融商品の開発の業務
- ⑫ 大学における教授研究の業務
- ⑬ 銀行又は証券会社における顧客の合併及び買収に関する調査又は分析及びこれに基づく合併及び買収に関する考案及び助言の業務(M&A アドバイザーの業務)
- ⑭ 公認会計士の業務
- ⑮ 弁護士の業務
- ⑯ 建築士の業務
- ⑰ 不動産鑑定士の業務
- ⑱ 弁理士の業務
- ⑲ 税理士の業務
- ⑳ 中小企業診断士の業務
上記の業務のうち、労使協定で定める業務に従事する労働者の労働時間については、実際の労働時間にかかわらず、協定で定めた時間労働したものとみなされます。
(1)労使協定で定める事項(※は令和6年4月1日より施行されるものです)
- ① 制度の対象とする業務 専門業務型裁量労働制の対象業務は、業務の性質上その遂行の方法等を大幅に当該業務に従事する労働者の裁量に委ねる必要があるため、当該業務の遂行の手段および時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をすることが困難なものとして省令および告示によって定められた業務(上記の全 20 業務)をいいます。
- ② 1日の労働時間としてみなす時間(みなし労働時間) 労働時間としてみなす時間は、1 日についての適用労働者の労働時間数として、具体的に定められたものを協定する必要があります。1 週間単位や、1 か月単位の時間を協定することはできません。 みなし労働時間を設定するに当たっては、対象業務の内容ならびに適用労働者に適用される賃金・評価制度を考慮して適切な水準のものとなるようにし、適用労働者の相応の処遇を確保することが必要です。相応の処遇については、個別具体的に各事業場の状況を踏まえて判断する必要がありますが、通常の労働時間制度ではなく、裁量労働制を適用するのにふさわしい処遇が確保されていることが必要です。 みなし労働時間は、専門型を適用する上で、必ずしも実労働時間と一致させなければならないものではありません。例えば、各事業場における「所定労働時間」や「所定労働時間に一定の時間を加えた時間」をみなし労働時間とすること等は可能ですが、その場合にも、適用労働者への特別の手当の支給や、適用労働者の基本給の引上げなどを行い、相応の処遇を確保することが必要です。
- ③ 対象業務の遂行の手段や時間配分の決定等に関して、使用者が適用労働者に具体的な指示 をしないこと
- ④ 適用労働者の労働時間の状況に応じて実施する健康・福祉確保措置の具体的内容 裁量労働制においても労働安全衛生法第 66 条の8の3等により、労働時間の状況の把握が義務付けられており、いかなる時間帯にどの程度の時間、労務を提供し得る状態にあったかを把握する必要があります。その方法は、タイムカードによる記録、パーソナルコンピュータ等の電子計算機の使用時間の記録等の客観的な方法その他の適切なものであることが必要です。 上記により把握した適用労働者の労働時間の状況に基づいて、適用労働者の勤務状況に応じ、使用者がいかなる健康・福祉確保措置をどのように講ずるかを明確に協定することが必 要です。
- ⑤ 適用労働者からの苦情処理のために実施する措置の具体的内容 適用労働者からの苦情の処理に関する措置を使用者が実施すること及びその具体的内容を協定しなければなりません。 苦情の申出の窓口及び担当者、取り扱う苦情の範囲、処理の手順・方法等その具体的内容を明らかにすることが望ましいです。
- ⑥ 制度の適用に当たって労働者本人の同意を得なければならないこと(※) 労働者本人の同意は、労働者ごとに、かつ労使協定の有効期間ごとに得られるものであることが必要です。また、労働者本人の同意については、書面によること等その手続を労使協定において具体的に定めることが適当です。
- ⑦ 制度の適用に労働者が同意をしなかった場合に不利益な取扱いをしてはならないこと(※) 制度の適用を受けることに同意しなかった場合の配置および処遇は、そのことを理由として不利益に取り扱うものであってはなりません
- ⑧ 制度の適用に関する同意の撤回の手続(※) 協定に当たっては、撤回の申出先となる部署および担当者、撤回の申出の方法等その具体的内容を明らかにすることが必要です。
- ⑨ 労使協定の有効期間 労使協定の有効期間は3年以内とすることが望ましいです。自動更新する旨を協定することは認められず、労使協定の有効期間の満了に当たり、再度協定する必要があります。
- ⑩ 労働時間の状況、⑤と⑥の措置の実施状況、同意及び同意の撤回(※)に関する労働者ごとの記録を労使協定の有効期間中及び有効期間満了後 3 年間保存すること
(2)届出義務
上記(1)の労使協定は、所定の様式(67 頁参照。)により所轄労働基準監督署長に届け出る必要があります。
2 企画業務型裁量労働制
上記 1 の裁量労働制とは別に、「事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査及び分析の業務」で、当該業務の性質上、これを適切に遂行するには、その遂行の方法を大幅に労働者の裁量に委ねる必要があるため、当該業務の遂行の手段や時間配分の決定等に関して使用者が具体的な指示をしない業務(以下「対象業務」という。)について、労働条件に関する事項を調査審議し、事業主に対し意見を述べることを目的とする一定の要件を満たす労使委員会を設置し、次の事項を委員の 5 分の 4 以上の多数により決議し、これを所定の様式(68 頁参照。)により所轄労働基準監督署長に届け出たときは、その対象業務について企画業務型裁量労働制(以下「企画型」という。)を適用することができます。
(注)企画業務型裁量労働制については、当然のことですが、対象業務が行われている事業場においてのみ実施できるものです。
(1)労使委員会の決議する事項(※は令和6年4月1日より施行されるものです)
- ① 制度の対象とする業務
企画型の対象業務は、事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査及び分析の業務であって、当該業務の性質上これを適切に遂行するにはその遂行の方法を大幅に労働者の裁量に委ねる必要があるため、当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をしないこととする業務をいいます。
- ② 対象労働者の具体的な範囲
対象労働者は「対象業務を適切に遂行するための知識、経験等を有する労働者」であって、対象業務に常態として従事している必要があります。「対象業務を適切に遂行するための知識、経験等を有する労働者」の範囲については、対象業務ごとに異なり得るものであるため、対象労働者となり得る者の範囲を特定するために必要な職務経験年数、職能資格等の具体的な基準を明らかにすることが必要です。
- ③ 1日の労働時間としてみなす時間(みなし労働時間)
労働時間としてみなす時間は、1 日についての対象労働者の労働時間数として、具体的に定められたものを決議する必要があります。1 週間単位や、1 か月単位の時間を協定することはできません。 みなし労働時間を設定するに当たっては、対象業務の内容ならびに対象労働者に適用される賃金・評価制度を考慮して適切な水準のものとなるようにし、対象労働者の相応の処遇を確保することが必要です。相応の処遇については、個別具体的に各事業場の状況を踏まえて判断する必要がありますが、通常の労働時間制度ではなく、裁量労働制を適用するのにふさわしい処遇が確保されていることが必要です。 みなし労働時間は、企画型を適用する上で、必ずしも実労働時間と一致させなければならないものではありません。例えば、各事業場における「所定労働時間」や「所定労働時間に一定の時間を加えた時間」をみなし労働時間とすること等は可能ですが、その場合にも、対象労働者への特別の手当の支給や、対象労働者の基本給の引上げなどを行い、相応の処遇を確保することが必要です。
- ④ 対象労働者の労働時間の状況に応じて実施する健康・福祉確保措置の具体的内容
裁量労働制においても労働安全衛生法第 66 条の8の3等により、労働時間の状況の把握が義務付けられており、いかなる時間帯にどの程度の時間、労務を提供し得る状態にあったかを把握する必要があります。その方法は、タイムカードによる記録、パーソナルコンピューター等の電子計算機の使用時間の記録等の客観的な方法その他の適切なものであることが必要です。 上記により把握した対象労働者の労働時間の状況に基づいて、対象労働者の勤務状況に応じ、使用者がいかなる健康・福祉確保措置をどのように講ずるかを明確に決議することが必要です。
- ⑤ 対象労働者からの苦情処理のために実施する措置の具体的内容
対象労働者からの苦情の処理に関する措置を使用者が実施すること及びその具体的内容を決議しなければなりません。 苦情の申出の窓口及び担当者、取り扱う苦情の範囲、処理の手順・方法等その具体的内容を明らかにすることが必要です。
- ⑥ 制度の適用に当たって労働者本人の同意を得なければならないこと
労働者本人の同意は、労働者ごとに、かつ決議の有効期間ごとに得られるものであることが必要です。また、労働者本人の同意については、書面によること等その手続を決議において具体的に定めることが適当です。
- ⑦ 制度の適用に労働者が同意をしなかった場合に不利益な取扱いをしてはならないこと
制度の適用を受けることに同意しなかった場合の配置および処遇は、そのことを理由として不利益に取り扱うものであってはなりません。
- ⑧ 制度の適用に関する同意の撤回の手続き(※)
決議に当たっては、撤回の申出先となる部署および担当者、撤回の申出の方法等その具体的内容を明らかにすることが必要です。
- ⑨ 対象労働者に適用される賃金・評価制度を変更する場合に、労働委員会に変更内容の説明
を行うこと(※)
使用者は、対象労働者に適用される賃金・評価制度を変更しようとする場合、労使委員会に対し、事前に当該変更の内容について説明を行うことが適当です。事前に説明を行うことが困難な場合であっても、変更後遅滞なく、その内容について説明を行うことが適当です。
- ⑩ 労使委員会の決議の有効期間
決議の有効期間は3年以内とすることが望ましいです。自動更新する旨を決議することは認められず、決議の有効期間の満了に当たり、再度決議する必要があります。
- ⑪ 労働時間の状況、④と⑤の措置の実施状況、同意及び同意の撤回(※)に関する労働者ご との記録を決議の有効期間中及び有効期間満了後 3 年間保存すること
(2)労使委員会の要件等
- ① 委員の半数は、当該事業場に過半数労働組合がある場合はその労働組合、ない場合は労働者の過半数を代表する者(管理監督者を除く。)から任期を定めて指名すること。
- ② 委員会の開催の都度、議事録を作成し、3 年間保存すること及び当該事業場の労働者に周知が図られていること。
- ③ 労使委員会の招集、定足数、議事その他委員会の運営について、必要な事項に関する規程が定められていること。
(3)報告(令和6年4月1日より、下記の通りの報告の頻度になります)
下記の事項について、決議の有効期間の始期から起算して初回は 6 か月以内に1回、その後は 1 年以内ごとに 1 回、所定の様式 69 頁参照。)により所轄労働基準監督署長に届け出ることが必要です。
- ① 対象労働者の労働時間の状況
- ② 当該労働者の健康及び福祉を確保するための措置の実施状況
- ③ 同意及び同意の撤回の状況(本項目は令和6年4月1日より追加されます)