Ⅳ 休暇・休業制度、公民権の保障
Ⅳ 休暇・休業制度、公民権の保障
1 休暇・休業制度
企業では、法定の休業制度や休暇制度のほか、企業毎に独自の休暇制度を有している場合がほとんどです。
代表的な休暇制度としては、病気休暇、慶弔休暇(結婚・出産・親族の死亡)等がみられますが、最近では、リフレッシュ休暇やアニバーサリー(記念日)休暇などといった休暇制度を導入する企業もあるようです。
これらの休暇制度を導入した場合には、就業規則にその内容を記載する必要があり(就業規則の絶対的必要記載事項)、該当者、付与日数、有給無給の別等を明らかにしておくことが重要です。
なお、以下の法定の休暇や休日についても、法律上は有給無給についての決まりはありませんので、就業規則において、定めをしておく必要があります。
- ① 産前産後の休業(労基法 65 条:6週間以内(多胎妊娠の場合は 14 週間)に出産する予定の者が休業を請求した場合及び産後8週間を経過しない場合、当該女性を就業させてはならない。)
- ② 生理休暇(労基法 68 条:生理日の就業が著しく困難な女性が請求した場合は、生理日に就業させてはならない。)
- ③ 育児休業(育介法5条:1歳未満の子を養育する労働者(男女を問わない。)は、子が一歳になるまでに申し出た期間休業することができる。また、特別な事情がある場合には、最長2歳に達するまで育児休業を取得することができる。)
- ④ 介護休業(育介法 11 条:配偶者、父母及び子(これらの者に準ずる者として、祖父母、兄弟姉妹及び孫を含む)、配偶者の父母が、負傷、疾病、身体上・精神上の障害により、2週間以上の常時介護を必要とする状態の場合、その介護をするため休業することができる。)
- ⑤ 子の看護休暇(育介法 16 条の 2:子の看護休暇は申し出により取得できる。)
- ⑥ 介護休暇(育介法 16 条の 5:介護休暇は申出により取得できる。)
- ⑦ 育児目的休暇(育介法 24 条:育児に関する目的のために利用できる休暇を設ける努力義務)
2 割増賃金の支払に代える休暇(代替休暇)
特に長い時間外労働を抑制することを目的として、1か月 60 時間を超えて法定時間外労働をさせた場合、労使協定により、50%以上の率の割増賃金の支払いに代えて有給の休暇(代替休暇)を与えることができる制度があります(労基法 37③)。
なお、中小企業については、令和5年3月 31 日までの間、法定割増賃金率の引上げは適用されないこととされていることから、代替休暇制度も導入できないこととなります。
<代替休暇に係る労使協定で定める事項>
- ア 代替休暇として与えることができる時間数の算定方法(労基則 19 の 2)
- 代替休暇を取得しなかった場合に支払う割増賃金率は、50%以上の率とする必要があり、代替休暇を取得した場合に支払う割増賃金率は、25%以上とする必要があります。この率については就業規則にも記載する必要があります。
- イ 代替休暇の単位(労基則 19 の 2)
- まとまった単位で与えることとすることによって労働者の休息の機会とするとの観点から、1日又は半日とされています。なお、「1日」とは労働者の1日の所定労働時間をいい、「半日」とはその2分の1をいいますが、厳格に所定労働時間の2分の1ではなく、労使で定義を決める必要があります。
また、時間単位の年次有給休暇と合わせて与えることもできます。 - ウ 代替休暇を与えることができる期間(労基則 19 の 2)
- 特に長い時間外労働が行われた月から近接した期間に与え、労働者の休息の機会とする観点から、月 60 時間を超えた月の末日の翌日から2か月以内で労使が協定することとなります。2か月連続で 60 時間を超えた場合には、前々月と前月の対応する代替休暇を合わせて取得させることも可能です。
- エ 代替休暇の取得日と割増賃金の支払日
- 賃金の支払額を早期に確定する観点から、
- ① 労働者の意向を踏まえた代替休暇の取得日の決定方法
- できる限り短い期間内で確認することとしますが、取得するか否かは、労働者の判断によることとなります。
- ② 月 60 時間を超える時間外労働に係る割増賃金の支払日
- 代替休暇取得の意向がある場合には、現行でも支払義務のある割増賃金(25%以上)については、通常の割増賃金支払日に支払う必要があります。
また、代替休暇取得の意向がない場合や意向が確認でない場合には、50%以上の割増賃金を通常の賃金支払日に支払う必要があります。
さらに、引上げ分の支払いの後、代替休暇を取得し、その分の割増賃金の清算を認める労使協定も可能です。 - オ 代替休暇と年次有給休暇との関係
- 代替休暇は、年次有給休暇とは異なるものです。
代替休暇を取得した日は、年次有給休暇の算定基礎となる全労働日には含まれないものとして取扱われます。
月 60 時間を超えた時間外労働の割増賃金の
支払いに代わる代替休暇に関する協定
※この協定例は、所定労働時間が7時間 45 分(8時 15 分始業、
17 時終業で、12 時から 13 時の1時間休憩)
の場合を前提としています。
○○株式会社と○○労働組合は、月(一賃金支払期をいう。以下同じ。)60 時間を超えて時間外労働した際に、割増賃金の支払に代えることができる代替休暇(以下、「時間外代替休暇」)に関し、次のとおり協定する。
- (時間外代替休暇と割増賃金との関係)
- 第1条 従業員は、時間外労働が月 60 時間を超えた場合に 60 時間を超えた部分の時間外労働に対する割増賃金の受領に代えて、本協定の定めるところにより、当該割増賃金額に相当する時間分の時間外代替休暇を取得できるものとする。
2 従業員が時間外代替休暇を取得したときは、会社は、当該 60 時間を超えた部分の時間外労働に対する割増賃金は支払わない。 - (時間外代替休暇の時間数の算定方法)
- 第2条 代替休暇として与える時間の時間数は、次の計算式によって算定する。時間外代替休暇の時間数=(月の時間外労働時間数−60 時間)×0.25
- (時間外代替休暇の単位等)
- 第3条 時間外代替休暇は、1日単位又は半日単位で取得するものとする。
2 半日単位で取得する場合の時間数は、午前半日であれば 3 時間 45 分、午後半日であれば 4 時間に相当するものとする。
3 1日単位又は半日単位で取得する場合であって、従業員が希望する場合には、年次有給休暇の時間単位の取得(別途協定)と合わせて1日単位、午前半日単位又は午後半日単位の休暇として取得することができる。 - (時間外代替休暇を取得できる期間)
- 第4条 時間外代替休暇を取得できる期間は、当該時間外労働が 60 時間を超えた月の末日の翌日から2か月以内とする。
2 時間外代替休暇の時間数は、連続した月の月 60 時間を超えた時間外労働時間数を合算することができる。
3 前項のとおり合算してもなお、時間外代替休暇の時間数が 3 時間 45 分に満たないときは、従業員は当該休暇を取得できないものとする。ただし、従業員が別途協定による年次有給休暇の時間単位取得と合わせて取得することを希望することにより、1日又は半日単位で取得できるようになった場合はこの限りでない。
3 公民権の保障
前項までの休日、休暇、休業の考え方とは別に、労働者が労働時間中に、選挙権その他公民としての権利を行使し、又は公の職務を執行するために必要な時間を請求した場合においては、使用者はこれを拒んではならないとされています(労基法 7)。
ただし、公民権の行使等に妨げがない限り時刻の変更は認められます。
なお、公民権を行使する場合においても、法律上は有給、無給についての決まりはありませんので、就業規則において、定めをしておく必要があります。
公民としての権利の主なものは、次のとおりです。
- ① 公職の選挙権及び被選挙権
- ② 最高裁裁判官の国民審査
- ③ 特別法の住民投票
- ④ 憲法改正の国民投票
- ⑤ 住民の直接請求
- ⑥ 選挙人名簿への登録申請
- ⑦ 裁判員候補、裁判員、補充裁判員としての公務
なお、平成 21 年 5 月 21 日から裁判員制度が始まりましたが、裁判員等としての職務も、労基法第7条の定める「公の職務」に該当しますので、従業員から請求があったときは、使用者は職務の遂行に必要な時間を与えなければなりません。
<参考>裁判員制度による裁判の流れ
<参考>裁判員選任の流れ
- (1)裁判員候補者名簿に記載されたことが通知されます。
- (2)事件ごとに裁判員候補者名簿の中から、くじで裁判員候補者が選ばれます(原則、裁判の6週間前まで。)。
くじで選ばれた裁判員候補者に質問票を同封した選任手続期日のお知らせ(呼出状)が送られてきます(裁判の日数が3日以内の事件(裁判員裁判対象事件の約7割)では、1事件当たり 50 人程度の裁判員候補者にお知らせが送られる予定。)。 - (3)裁判の当日(原則裁判員6人の選任。)。
裁判員候補者のうち、辞退を希望しなかったり、質問票の記載のみからでは辞退が認められなかった方は、選任手続の当日、裁判所へ行くことになります。
最終的に事件ごとに裁判員6人が選ばれます(必要な場合は補充裁判員も選任します。)。
通常であれば午前中に選任手続を終了し、午後から審理が始まります。