Ⅲ 賃金支払いの 5 原則
Ⅲ 賃金支払いの 5 原則
労基法第 24 条は、賃金の支払いに関して、賃金が毎月確実に労働者本人の手に渡るように「通貨払い」、「直接払い」、「全額払い」、「毎月払い」、「一定期日払い」の五つの原則を定めています。
(1)通貨払いの原則
- ア 現物給与の禁止
- 賃金は、通貨で支払わなければなりません。現物給与は原則として禁じられています。ただし、法令又は労働協約に別段の定めがある場合には、通貨以外のもので支払うことができます。
- イ 預貯金口座への振込み
- 労働者本人の同意を得た場合には、労働者が指定する銀行その他の金融機関に対する本人名義の預金又は貯金の口座及び証券総合口座への振込み又は払込みの方法によって支払うことができます。
なお、銀行等の金融機関への口座振込払いは、労働者の同意を条件に正式に法律上の支払方法として認められるようになりましたが、これは、①本人の同意(形式は問わない)に基づき、②本人名義の口座(配偶者や子の名義でも不可。)に、③賃金支払日の午前 10 時までに払出しが可能なように、実施する必要があります(平 10.9.10 基発 530)
- ウ 退職手当の小切手などによる支払い
- 退職手当については、労働者の同意を得た場合には、預貯金口座及び証券総合口座への振込み若しくは払込みのほか、銀行その他の金融機関が自己宛に振り出し、若しくは支払保証をした小切手の交付又は郵便為替の交付の方法によって支払うことができます。
(2)直接払いの原則
- ア 賃金は、直接労働者本人に支払わなければなりません。
- イ 他人を介して支払ったり、労働者の代理人などに支払うことはできません。
- ただし、労働者が病気などで欠勤している場合、家族など労働者本人の使者と認められる者に対して賃金を支払うことは差し支えないとされています。
- ウ 未成年者の賃金についても、親権者又は後見人が代わって受け取ることはできません(労基法 59)。
- ただし、労働者が病気などで欠勤している場合、家族など労働者本人の使者と認められる者に対して賃金を支払うことは差し支えないとされています。
(3)全額払いの原則
賃金は、一部を控除することなく、その全額を支払わなければなりません。
ただし、次の場合には、賃金を控除して支払うことができます。
- ア 法令に別段の定めがあるもの
- 給与所得に対する所得税等の源泉徴収、雇用保険料及び社会保険料の被保険者負担分の控除などです。
- イ 労使協定が締結されている場合
- 社宅・寮などの費用、購入物品の代金などです。
この場合には、労働者代表との間に「賃金の一部控除に関する協定」を結ぶ必要があります。協定例は次のとおりです。また、労働者代表の選出方法は労使協定の場合と同様です。
賃金の一部控除に関する協定書(例)
○○○○㈱代表取締役○○○○と労働者代表○○○○とは、労働基準法第 24 条第1項に基づき、賃金の一部控除に関し、下記のとおり協定する。
記
第1条 会社は毎月の賃金の支払いの際、次の各号に掲げるものを控除する。
- (1)食事代
- (2)親睦会費
- (3)各種貸付金の月返済金
第2条 第1条の(3)については、賞与の支払いの際にも、控除することができる。
第3条 第1条に掲げるもののうち、従業員が退職の際、未払いのものについては、退職金から控除することができる。
第4条 この協定は、協定の日から3年間有効とする。ただし、有効期間満了後も当事者の何れかが 90 日前に、文書により破棄の通告をしない限り、効力を有するものとする。
○年○月○日
○○○○㈱ 代表取締役○○○○○ 印
労働者代表○○○○○ 印
なお、次の場合には全額払いの原則には違反しません。
- ① 欠勤、遅刻、早退など労働を提供しなかった時間について賃金を支払わないこと。
- ② 賃金の一部を前払いした場合に、その分を控除して支払うこと。
(4)毎月 1 回以上・一定期日払いの原則
賃金支払期日の間隔が開きすぎることは、労働者の生活上の不安を招くこととなり、また、支払日が不安定で間隔が一定しないと労働者の計画的な生活が困難となるので、労働者の定期的収入を確保するため、賃金は毎月 1 回以上、一定期日に支払うべきこととされています(労基法 24)。
- ア 毎月 1 回以上とされていますので、月 2 回、週 1 回や日払いでも差し支えありません。
- イ 一定期日とされていますので、「毎月 25 日」というように支払期日を定めて、その期日には支払わなければなりません。
- ウ この原則は、退職金などの臨時に支払われる賃金、賞与その他これに準ずる賃金には適用されません。