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Ⅶ 割増賃金

Ⅶ 割増賃金

<割増賃金の支払いが必要な場合と割増賃金率>

1 割増賃金を支払うべき場合

(1)次の場合には、割増賃金を支払わなければなりません。

  • ア 法定労働時間を超え又は法定の休日に労働させた場合
  • イ 深夜(午後 10 時から午前5時まで)に労働させた場合

(2)割増賃金支払いの基本的パターン

 所定労働時間が法定労働時間より短いケースの時間外労働時間

 このケースのように、1日の所定労働時間が7時間のような事業場では、所定労働時間を超えてある日に1時間(*の部分)残業させても(法内残業)通常の1時間当たりの賃金を支払えば足り、労基法上割増賃金の支払い義務はありません(ただし、就業規則、労働協約に割増賃金を支払う旨の定めがあれば支払う必要があります。)。

(3)特別条項付き労使協定と割増賃金率

ア 労基法第 36 条第4項に定める時間(79 頁参照。)を超えて労働させる場合には、「特別条項付き労使協定」を締結することにより、協定時間の範囲まで時間外労働が可能になります。
なお、この協定の締結には「臨時的な特別の事情」が必要なこと、「臨時的な特別の事情」とは「全体として1年の半分を超えない一定の限られた時期において、一時的・突発的に業務量が増える状況等により限度時間を超えて労働させる必要がある場合」をいうほか、
  • ① 限度時間を超える時間の労働に係る割増賃金率を定めなければならないこと
  • ② この割増賃金率は2割5分を超える率とするよう努力すること
  • ③ 延長することができる労働時間をできる限り短くするよう努力することについて協定することとなります。

以下に示す協定例では、割増賃金率を3割としています。
イ 月 60 時間を超えて時間外労働をさせた場合には、5割以上の割増賃金の支払いが必要となります(大企業に適用。中小企業は令和5年4月1日より適用。次図参照。)。
  • ① 時間外労働が深夜に及んだ場合、5割以上の割増賃金を支払わなければなりません。

    時間外労働(2割5分以上)+深夜労働(2割5分以上)→5割以上

  • ② 所定労働時間が深夜にかかっている場合
    深夜労働のみ2割5分以上の割増賃金を加算して支払わなければなりません。
ウ 時間外労働と深夜労働が重なるケース
  • ① 限度基準に定める時間(79 頁参照。)を超えて労働させる場合には、2割5分を超える割増賃金率とする努力義務がありますので、この時間について特別(例えば3割)の割増賃金率を定めていれば、5割5分以上の割増賃金を支払わなければなりません。

    時間外労働(3割)+深夜労働(2割5分以上) → 5割5分以上

  • ② 大企業において、月 60 時間を超えた時間外労働が深夜に及んだ場合は、7 割 5 分以上の割増賃金を支払わなければなりません。

    時間外労働(5割)+深夜労働(2割5分以上)→7割5分以上

エ 休日労働で1日8時間を超えるケース

 休日労働とは、週1回又は4週4日の法定休日に労働させることです。

 したがって、週休2日制のうち1日とか、国民の祝日に労働させても、他に週1日の休日が確保されている限り労基法上の休日労働とはならず、割増賃金の支払いは不要です(ただし、就業規則等に規定があれば別です。)しかし、この労働の結果、1週間の法定労働時間である 40 時間を超えた場合は、その超える部分が時間外労働となり、割増賃金(2割5分)の支払いが必要となります。

 なお、休日には所定労働時間の概念がありませんので、すべてが休日労働時間となり、休日労働時間が時間外労働に及んだ場合でも、3割5分以上の割増賃金の支払いがあれば問題ありません。

オ 休日労働と深夜業が重なるケース
 休日労働が深夜に及んだ場合、6割以上の割増賃金を支払わなければなりません。

休日労働(3割5分以上)+深夜労働(2割5分以上)→6割以上

2 代替休暇を付与した場合の割増賃金の支払い

 中小企業を除き、月 60 時間を超える法定時間外労働が行われた場合に割増賃金の支払いに替えた代替休暇を取得するときにも、2割5分以上の割増賃金の支払いは必要となります。

 代替休暇に充当する時間数×割増賃金率(2割5分以上)

 なお、代替休暇取得の意向はあったが、実際には取得できなかった場合には、取得できないことが確定した期間の賃金支払日に、取得分に相当する割増賃金(2割5分以上)を追加して支払う必要があります。

 また、代替休暇取得の意向がない場合や意向が確認できない場合には、50%以上の割増賃金を通常の賃金支払日に支払う必要があります。

 さらに、引上げ分の支払いの後、代替休暇を取得し、その分の割増賃金の清算を認める労使協定も可能です。

3 割増賃金算定の基礎となる賃金

 これら 7 種類に該当しない賃金は、すべて割増賃金算定の基礎に算入しなければなりません(労基法 37④、労基則 21)。また、これら除外される 7 種類の賃金は、名称にとらわれず実質によって判断することとされており、このような名称の手当であればすべて除外することができるというわけではありません。

 これらの手当のうち家族手当、通勤手当及び住宅手当については、それぞれ扶養家族数や通勤に要する費用、通勤距離に応じて支給される手当、住宅に要する費用に応じて算定される手当のみが割増賃金の基礎から除外することができ、例えば、家族手当と称していても扶養家族数に関係なく一律に支給される手当は、ここでいう家族手当には該当しません。

4 割増賃金の具体的な計算方法

割増賃金額の計算方法を賃金支払の形態別に示すと、以下のとおりです。

(1)時間給の場合

  • ① 法定労働時間を超えて月 45 時間以内かつ年 360 時間以内で労働させた場合

    1時間当たりの割増賃金=時間給×1.25×時間外労働時間数

  • ② 法定労働時間を超えて、かつ、月 45 時間を超えて 60 時間以内又は年 360 時間を超えて労働させた場合

    1時間当たりの割増賃金=時間給×協定で定めた割増賃金率×時間外労働時間数

  • ③ 法定労働時間を超えて、かつ、月 60 時間を超えて労働させた場合(④の時間を除く。)

    1時間当たりの割増賃金=時間給×1.50×時間外労働時間数

  • ④ 法定労働時間を超えて、かつ、月 60 時間を超えて労働させた場合であって、「代替休暇」 に充当した場合

    1時間当たりの割増賃金=時間給×1.25×時間外労働時間数

  • ⑤ 法定休日に労働させた場合

    1時間当たりの割増賃金=時間給×1.35

(2)日給の場合

 以下の「所定労働時間」とは、法定の労働時間ではなく、当該事業場又は当該労働者について定められた労働時間です。したがって、例えば、所定労働時間が7時間である場合には、日給額を7時間で割らなければなりません。なお、日によって所定労働時間数が異なるときは、1週間における1日平均所定労働時間数で割ることとなります。

  • ① 法定労働時間を超えて月 45 時間以内かつ年 360 時間以内で労働させた場合

    1時間当たりの割増賃金=日給÷1日の所定労働時間×1.25×時間外労働時間数

  • ② 法定労働時間を超えて、かつ、月 45 時間を超えて 60 時間以内、または、年 360 時間を超えて労働させた場合

    1時間当たりの割増賃金=日給÷1日の所定労働時間×協定で定めた割増賃金率×時間外労働時間数

  • ③ 法定労働時間を超えて、かつ、月 60 時間を超えて労働させた場合(④の時間を除く。)

    1時間当たりの割増賃金=日給÷1日の所定労働時間×1.50×時間外労働時間数

  • ④ 法定労働時間を超えて、かつ、月 60 時間を超えて労働させた場合であって、「代替休暇」 に充当した場合

    1時間当たりの割増賃金=日給÷1日の所定労働時間×1.25×時間外労働時間数

  • ⑤ 法定休日に労働させた場合

    1時間当たり割増賃金額=日給額÷1日の所定労働時間数×1.35

(3)月給の場合

 月間所定労働時間は通常月によって変動します。このため「1か月の所定労働時間数」は1 年間における1か月平均所定労働時間数を用いることとなります。

  • ① 法定労働時間を超えて月 45 時間以内かつ年 360 時間以内で労働させた場合

    1時間当たりの割増賃金=月給÷1か月の所定労働時間数×1.25×時間外労働時間数

  • ② 法定労働時間を超えて、かつ、月 45 時間を超えて 60 時間以内又は年 360 時間を超えて労働させた場合

    1時間当たりの割増賃金=月給÷1か月の所定労働時間数×協定で定めた割増賃金率×時間外労働時間数

  • ③ 法定労働時間を超えて、かつ、月 60 時間を超えて労働させた場合(④の時間を除く。)

    1時間当たりの割増賃金=月給÷1か月の所定労働時間数×1.50×時間外労働時間数

  • ④ 法定労働時間を超えて、かつ、月 60 時間を超えて労働させた場合であって、「代替休暇」 に充当した場合

    1時間当たりの割増賃金=月給÷1か月の所定労働時間数×1.25×時間外労働時間数

  • ⑤ 法定休日に労働させた場合

    1時間当たり割増賃金額=月給額÷1か月の所定労働時間数×1.35

(4)出来高払い賃金の場合

  • ① 法定労働時間を超えて月 45 時間以内かつ年 360 時間以内で労働させた場合

    1時間当たりの割増賃金=当該賃金算定期間に支払った出来高給(請負給)の総額÷当該賃金算定期間における総労働時間×0.25×時間外労働時間数

  • ② 法定労働時間を超えて、かつ、月 45 時間を超えて 60 時間以内又は年 360 時間を超えて労働させた場合

    1時間当たりの割増賃金=当該賃金算定期間に支払った出来高給(請負給)の総額÷当該賃金算定期間における総労働時間×協定で定めた割増賃金率×時間外労働時間数

  • ③ 法定労働時間を超えて、かつ、月 60 時間を超えて労働させた場合(④の時間を除く。)

    1時間当たりの割増賃金=当該賃金算定期間に支払った出来高給(請負給)の総額÷当該賃金算定期間における総労働時間×0.50×時間外労働時間数

  • ④ 法定労働時間を超えて、かつ、月 60 時間を超えて労働させた場合であって、「代替休暇」 に充当した場合

    1時間当たりの割増賃金=当該賃金算定期間に支払った出来高給(請負給)の総額÷当該賃金算定期間における総労働時間×0.25×時間外労働時間数

  • ⑤ 法定休日に労働させた場合

    1時間当たり割増賃金額=当該賃金算定期間に支払われた出来高給(請負給)の総額÷当該賃金算定期間における総労働時間数×0.35

 なお、賃金が上の計算式(1)~(4)で示した賃金の2以上の組合せで支払われる場合、例えば、基本給は月給で、日額の手当があるような場合には、それぞれの部分について計算した金額の合計額が1時間当たりの割増賃金となります。

5 年俸制について

  • ○ 年俸制を採用している場合でも、時間外労働や法定休日労働をさせた場合については、割増賃金の支払が必要です。
  • ○ 年俸制を採用する場合で、年俸に時間外労働、休日労働に対する割増賃金を含むものとする場合は、年俸に時間外労働等の割増賃金が含まれていることを労働契約の内容として明らかにし、割増賃金相当部分と通常の労働時間に対応する賃金部分とに区別できるようにしなければなりません。割増賃金相当部分と通常の労働時間に対応する賃金部分とを明確に区別していないとしても、前年度実績からみて一定の時間外労働等が存在することが想定され、その分の割増賃金を含めて年俸額が決められていることを労使双方が認識している場合には、年俸に時間外労働、休日労働に対する割増賃金が含まれていると認められる場合もありますが、賃金の決定・計算の方法などの労働条件については、書面の交付により明示する必要があります。