Ⅱ 妊産婦(母性)についての保護規定
Ⅱ 妊産婦(母性)についての保護規定
1 産前休業
使用者は、6 週間(多胎妊娠の場合は 14 週間)以内に出産する予定の女性が休業を請求した場合には、その女性を就業させることはできません(労基法 65①)。出産当日は産前休業に含まれます。
2 産後休業
使用者は、産後 8 週間を経過しない女性を就業させることはできません(労基法 65②)。出産とは、妊娠 4 か月以上の分娩をいい、死産も含まれます。
産前休業は女性の請求が要件となっていますが、産後休業は女性からの就労請求の有無にかかわらず、就業させることはできません。
ただし、産後 6 週間を経過した女性が就労を請求した場合で、その女性について医師が支障がないと認めた業務に就かせることは、差し支えありません。
3 産前産後休業中の賃金の取扱いなど
産前休業、産後休業とも必ずしも有給とする必要はなく、有給か無給かは、就業規則などで定めるところによることとなります。
4 妊産婦の就業制限
妊産婦(妊娠中の女性及び産後 1 年を経過しない女性)については、母体、胎児の保護のために、医学的見地から、危険有害業務の就業制限等特別の保護を講ずることが求められています(労基法64 の 3)。
妊娠中の女性を就かせてはならない業務、産後1年を経過しない女性が申し出た場合に就かせてはならない業務は、次のとおりです。
<妊産婦の就業制限一覧>
(※)×…就かせてはならない業務、△…申し出た場合就かせてはならない業務、○…就かせても差し支えない業務
女性則2条 | 妊婦 | 産婦 | その他の女性 | |
---|---|---|---|---|
1 号 | 重量物を取り扱う業務 | × | × | × |
2 号 | ボイラー(小型ボイラーを除く。)の取り扱いの業務 | × | △ | ○ |
3 号 | ボイラーの溶接の業務 | × | △ | ○ |
4 号 | つり上げ荷重が5トン以上のクレーン、デリック又は制限荷重が5トン以上の揚貨装置の運転の業務 | × | △ | ○ |
5 号 | 運転中の原動機又は原動機から中間軸までの動力伝導装置の掃除、給油、検査、修理又はベルトの掛換えの業務 | × | △ | ○ |
6 号 | クレーン、デリック又は揚貨装置の玉掛けの業務((2人以上の者によつて行う玉掛けの業務における補助作業の業務を除く。)) | × | △ | ○ |
7 号 | 動力により駆動される土木建築用機械又は船舶荷扱用機械の運転の業務 | × | △ | ○ |
8 号 | 直径が25 センチメートル以上の丸のこ盤(横切用丸のこ盤及び自動送り装置を有する丸のこ盤を除く。)又はのこ車の直径が 75 センチメートル以上の帯のこ盤(自動送り装置を有する帯のこ盤を除く。)に木材を送給する業務 | × | △ | ○ |
9 号 | 操車場の構内における軌道車両の入換え、連結又は解放の業務 | × | △ | ○ |
10 号 | 蒸気又は圧縮空気により駆動されるプレス機械又は鍛造機械を用いて行う金属加工の業務 | × | △ | ○ |
11 号 | 動力により駆動されるプレス機械、シャー等を用いて行う厚さ8ミリメートル以上の鋼板加工の業務 | × | △ | ○ |
12 号 | 岩石又は鉱物の破砕機又は粉砕機に材料を送給する業務 | × | △ | ○ |
13 号 | 土砂が崩壊するおそれのある場所又は深さが5メートル以上の地穴における業務 | × | ○ | ○ |
14 号 | 高さが5 メートル以上の場所で、墜落により労働者が危害を受けるおそれのあるところにおける業務 | × | ○ | ○ |
15 号 | 足場の組立て、解体又は変更の業務(地上又は床上における補助作業の業務を除く。) | × | △ | ○ |
16 号 | 胸高直径が 35 センチメートル以上の立木の伐採の業務 | × | △ | ○ |
17 号 | 機械集材装置、運材索道等を用いて行う木材の搬出の業務 | × | △ | ○ |
18 号 | 妊娠・出産・授乳機能に影響のある一定の化学物質を発散する場所における業務 | × | × | × |
19 号 | 多量の高熱物体を取り扱う業務 | × | △ | ○ |
20 号 | 著しく暑熱な場所における業務 | × | △ | ○ |
21 号 | 多量の低温物体を取り扱う業務 | × | △ | ○ |
22 号 | 著しく寒冷な場所における業務 | × | △ | ○ |
23 号 | 異常気圧下における業務 | × | △ | ○ |
24 号 | さく岩機、鋲打機等身体に著しい振動を与える機械器具を用いて行う業務 | × | × | ○ |
5 軽易業務への転換
妊娠中の女性が請求した場合には、他の軽易な業務に転換させなければなりません(労基法 65③)。
どのような業務が軽易な業務であるかは、具体的状況に応じて判断されるものですが、原則として本人が請求した業務に転換させる趣旨です。
しかし、転換すべき適当な業務がない場合に、新たに軽易な業務を創設して与えるまでの必要はありません。
6 変形労働時間制、時間外労働等の制限
(1)変形労働時間制適用の制限
妊産婦が請求した場合には、1か月単位の変形労働時間制、1 年単位の変形労働時間制を採用している場合であっても特定の日に 8 時間、特定の週に 40 時間を超えて労働させることはできず、1 日及び週の法定労働時間の枠内で労働させなければなりません(労基法 66①)。
(2)時間外労働、休日労働、深夜業の制限
妊産婦が請求した場合には、非常災害等の場合を含め時間外労働、休日労働又は深夜業をさせることはできません(労基法 66②、③)。
7 妊娠中及び出産後の健康管理に関する措置
均等法では、事業主に対し、母性健康管理に関する措置を講じることを義務付けています。
(1)女性労働者が母子保健法の規定による保健指導又は健康診査を受けるために、必要な時間を確保することができるようにすること(均等法 12)。
* 回数等の具体的な内容(均等法施行規則 2 の 4)
- ア 産前(妊娠中)の場合
-
妊娠 23 週まで ‥‥‥‥ 4 週に 1 回 妊娠 24 週から 35 週まで ‥‥‥‥ 2 週に 1 回 妊娠 36 週から出産まで ‥‥‥‥ 1 週に 1 回 ただし、医師又は助産婦(以下「医師等」という。)がこれと異なる指示をしたときには、その指示により必要な時間を確保することができるようにすることが必要です。
- イ 産後(出産後 1 年以内)の場合
-
医師等が保健指導等を受けることを指示したときは、その指示するところにより、必要な時間を確保することができるようにすることが必要です。
健康診査等を受けるために必要な時間の付与方法(申請方法)や付与単位(半日単位、時間単位など)、有給か無給かは、就業規則などで定めるところによります。
(2)女性労働者が、保健指導又は健康診査に基づく指導事項を守ることができるようにするため、勤務時間の変更、勤務の軽減等必要な措置を講じること(均等法 13①)。
* 具体的には、指針(平成 9 年労働省告示第 105 号)において、概略が以下のように示されています。
- ア 事業主が講ずべき母性健康管理上の措置
-
- ① 妊娠中の通勤緩和:時差通勤、勤務時間の短縮等の措置
- ② 妊娠中の休憩に関する措置:休憩時間の延長、休憩回数を増やす等の措置
- ③ 妊娠中又は出産後の症状等に対応する措置:作業の制限、休業等の措置
医師等の具体的な指導がない場合又は措置が不明確な場合には、担当の医師等と連絡をとり判断を求める等適切な対応が必要です。
- イ 医師等の指導事項の的確な伝達、講ずべき措置の明確化を図るため、事業主は、「母性健康管理指導事項連絡カード」の利用に努めることとされているほか、プライバシーの保護について留意することとされています。
勤務時間の短縮や休業の措置等によって実際に勤務しなかった時間分の賃金の取扱い(有給・無給)は、就業規則などで定めるところによります
8 妊産婦等への解雇等の不利益取扱いの禁止
(1)産前・産後休業にかかる解雇制限
産前 6 週間(多胎妊娠の場合は 14 週間)、産後 8 週間の休業中とその後 30 日は、理由を問わずその労働者を解雇できません(労基法 19。ただし、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合には、所轄の労働基準監督署長の認定を受けて解雇することができます。)。
(2)婚姻・出産・妊娠にかかる不利益取扱いの禁止
- ア 女性労働者については、次の不利益取扱いが禁止されています(均等法 9①∼②)
-
- ① 女性労働者が、婚姻・妊娠・出産したことを退職理由として予定する定め
- ② 女性労働者が婚姻したことを理由とする解雇
- イ 妊産婦であることあるいはその権利を行使した労働者に対する不利益取扱いの禁止
-
次のことを理由として、労働者を解雇する等の不利益取扱いをすることはできません(均等法 9③、均等則 2 の 2)。
- ① 妊娠したこと、出産したこと
- ② 妊娠中及び産後 1 年以内の女性が、保健指導又は健康診査に係る措置を求め、又はこれらの措置を受けたこと
- ③ 坑内業務若しくは危険有害業務に従事できず、若しくは業務に従事しなかったこと又は坑内業務若しくは危険有害業務に従事しない旨申し出をし、若しくは業務に従事しなかったこと
- ④ 産前休業を請求し、若しくは産前休業したこと又は産後休業期間中に就業できず、若しくは産後休業をしたこと
- ⑤ 妊娠中の女性が、他の軽易な業務への転換を請求し、若しくは他の軽易な業務に転換したこと
- ⑥ 事業場において変形労働時間制がとられる場合において1週間又は1日について法定労働時間を超える時間について労働しないことを請求したこと、時間外・休日労働(非常災害等の場合を含む。)及び深夜業をしないことを請求したこと、又はこれらの労働をしなかったこと
- ⑦ 育児時間を請求し、又は育児時間を取得したこと
- ⑧ 妊娠又は出産に起因する症状により、労務の提供ができないこと若しくはできなかったこと又は労働能率が低下したこと
不利益取扱いの典型的な例としては、次のようなものがあります。
- ① 解雇すること。
- ② 期間を定めて雇用される者について、契約の更新をしないこと。
- ③ あらかじめ契約の更新回数の上限が明示されている場合に、当該回数を引き下げること。
- ④ 退職又は正社員をパートタイム労働者等の非正規社員とするような労働契約内容の変更の強要を行うこと。
- ⑤ 降格させること。
- ⑥ 就業環境を害すること。
- ⑦ 不利益な自宅待機を命ずること。
- ⑧ 減給をし、又は賞与等において不利益な算定を行うこと。
- ⑨ 昇進・昇格の人事考課において不利益な評価を行うこと。
- ⑩ 不利益な配置の変更を行うこと。
- ⑪ 派遣労働者として就業する者について、派遣先が当該派遣労働者に係る労働者派遣の役務の提供を拒むこと。
- ウ 妊娠中の女性及び出産後 1 年を経過しない女性に対する解雇は、無効となります(ただし、事業主が当該解雇が妊娠または出産等に関することを理由とする解雇でないことを証明した場合は除きます。)(均等法 9④)。