Ⅴ 職場におけるパワーハラスメント
Ⅴ 職場におけるパワーハラスメント
労働施策総合推進法では、事業主に次のことについて労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備などの雇用管理上の措置を義務付けるとともに、パワーハラスメントについて労働者が事業主に相談を行ったこと又は事業主による相談対応に協力した際に事実を述べたことを理由とする解雇その他不利益な取扱いを禁止しています(労働施策総合推進法 30 の 2)。
1 職場におけるパワーハラスメントの内容
職場におけるパワーハラスメントとは、職場において行われる、①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものであり、①から③までの3つの要素を全て満たすものをいいます。
なお、客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、職場におけるパワーハラスメントには該当しません。
個別の事案について職場におけるパワーハラスメントの該当性を判断するに当たっては、(2)で総合的に考慮する事項のほか、当該言動により労働者が受ける身体的又は精神的な苦痛の程度等を総合的に考慮して判断する必要があります。
(1)優越的な関係を背景とした言動
業務を遂行するに当たって、当該言動を受ける労働者が行為者とされる者(以下「行為者」という。)に対して抵抗や拒絶することができない蓋然性が高い関係を背景として行われるものを指します。
【優越的な関係を背景とした言動の例】
- ① 職務上の地位が上位の者による言動
- ② 同僚又は部下による言動で、当該言動を行う者が業務上必要な知識や豊富な経験を有してお
り、当該者の協力を得なければ業務の円滑な遂行を行うことが困難であるもの - ③ 同僚又は部下からの集団による行為で、これに抵抗又は拒絶することが困難であるもの
(2)業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動
社会通念に照らし、当該言動が明らかに当該事業主の業務上の必要性がない、又はその態様が相当でないものを指します。
この判断に当たっては、様々な要素(当該言動の目的、当該言動を受けた労働者の問題行動の有無や内容・程度を含む当該言動が行われた経緯や状況、業種・業態、業務の内容・性質、当該言動の態様・頻度・継続性、労働者の属性や心身の状況、行為者の関係性等)を総合的に考慮する必要があります。
その際、個別の事案において労働者の行動が問題となる場合は、その内容・程度とそれに対する指導の態様等の相対的な関係性が重要な要素となることについて留意する必要があります。なお、労働者の行動に問題があった場合でも、人格を否定するような言動など業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動がなされれば、職場におけるパワーハラスメントに該当します。
【業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動の例】
- ① 業務上明らかに必要性のない言動
- ② 業務の目的を大きく逸脱した言動
- ③ 業務を遂行するための手段として不適当な言動
- ④ 当該行為の回数、行為者の数等、その態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超
える言動
(3)就業環境が害されるとは
(1)(2)の言動により、労働者が身体的又は精神的に苦痛を与えられ、就業環境が不快なものとなったために能力の発揮に重大な悪影響が生じる等の当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じることを指します。
この判断に当たっては、「平均的な労働者の感じ方」、すなわち、「同様の状況で当該言動を受けた場合に、社会一般の労働者が、就業する上で看過できない程度の支障が生じたと感じるような言動であるかどうか」を基準とすることが適当です。なお、言動の頻度や継続性は考慮されますが、強い身体的又は精神的苦痛を与える態様の言動の場合には、1回でも就業環境を害する場合があり得ます。
(4)パワーハラスメントの代表的な言動の類型
パワーハラスメントの代表的な類型としては、以下のものが挙げられます。
- ① 身体的な攻撃(暴行・傷害)
- ② 精神的な攻撃(脅迫・暴言等)
- ③ 人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)
- ④ 過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害)
- ⑤ 過小な要求(業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)
- ⑥ 個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)
相手の性的指向・性自認に関する侮辱的な言動を行うことや本人の了解を得ずに性的指向・性自認に関して他の労働者に暴露すること(いわゆる「アウティング」)は、職場におけるパワーハラスメントに該当することがあります。
これらの例は限定列挙ではなく、個別の事案の状況等によって判断が異なることもあり得るため、職場におけるパワーハラスメントに該当するか微妙なものも含め広く相談に対応する必要があります。
2 事業主が雇用管理上講ずべき措置
事業主は、企業・事業所の規模や職場の状況にかかわらず、職場におけるパワーハラスメントを
防止するために、次の項目について、措置を講じなければならないこととされています。
※ (1)~(4)については、Ⅲセクシュアルハラスメントの部分と共通です。
- (1)事業主の方針の明確化及びその周知・啓発
- (2)相談・苦情に適切に対応するための体制の整備
- (3)職場におけるハラスメントが生じた場合における事後の迅速かつ適切な対応
- (4)プライバシーの保護と不利益取扱いの禁止