Ⅳ 派遣労働における労働基準法等の適用について
Ⅳ派遣労働における労基法等の適用について
1 違法な労働者派遣についての法令適用
労働者派遣法は、労基法などの労働者保護法規の適用については、労働契約の当事者である派遣元事業主が責任を負うという原則に立ちながら、実態として派遣先が指揮命令を行うという就業形態に着目して、派遣先が労基法などの使用者としての責任を負うという特例規定を設けています。
これらの規定は、労働者派遣という就業形態に着目して、労基法などに関する責任の分担などを行うものであり、適法な労働者派遣だけではなく、それ以外の違反事業者(労基法などの適用事業とされている場合に限る。)が行う労働者派遣についても、また、業として行われていない労働者派遣についても適用されることとしており、この点は注意する必要があります(労働者派遣法 44①)。
例えば、構内下請業者が、請負の形式で契約していても、「労働者派遣法の請負に関する告示の要件」に違反するような実態、つまり、下請は労働者を派遣するのみで、元請が指揮命令して、元請の従業員と一緒になって作業を行わせているということになると、労働者派遣に該当し、違法派遣となります。この場合において、派遣先が当該派遣労働者に対する関係では、労基法や安衛法上の使用者や事業者となり、労基法や安衛法の罰則の適用も受けることとされているわけです(労働者派遣法第 44 条以下においては、「事業主に雇用され、派遣先に派遣される労働者」とされ、派遣元事業主から派遣される労働者」とは規定されていません。)。
2 労基法等の特例適用
労働者派遣法では、労基法、安衛法、じん肺法、作業環境測定法、均等法及び育介法について特例適用が定められています(同法 44∼47 の 3 まで)。
すなわち、労働者派遣法においては、派遣労働者に関する労基法などの適用について、基本的には派遣労働者と労働契約関係にある派遣元事業主が責任を負うものであるという原則を維持しつつ、労働者派遣の実態から派遣元事業主に責任を問えない事項、派遣労働者の保護の実効を期する上から派遣先に責任を負わせることが適切な事項について、特例規定により派遣先に責任を負わせることとされています。
具体的な分担としては、次のような例があげられます。
- ① 労働時間、休憩、休日などの具体的就業に関連する事項については、労働時間、休日の枠組みの設定は派遣元の事業主が行うが、現実にこれに基づき指揮命令する派遣先の事業主が労基法の労働時間などの遵守責任を負います。
- * 労働時間の適用
労働時間の適用については派遣先が労基法上の使用者となり、時間外・休日労働、変形労働時間制の労使協定等、年次有給休暇の付与、産前産後休業(育児時間、生理日の就業については派遣先)については、派遣元が労基法上の使用者となります。
したがって、いくら労働者派遣契約において 1 日 8 時間を超えて、あるいは法定休日に就労することができる旨定めていたとしても、派遣元において、36協定の締結、届出をしていなければ、派遣先は時間外労働・休日労働を命ずることはできません。すなわち、派遣元の使用者が、労働者派遣契約に就業日、始業・終業時刻を超えて労働が可能である旨定めたとしても、派遣元の使用者が現実に当該就業日、始業・終業時刻を超えて労働が可能となるような内容の36協定の締結・届出していない場合に労働者派遣を行えば、派遣先の使用者の労基法違反を引き起こすことになり、このような労働者派遣を行うことは禁止されているのです。結局、派遣先は、派遣元の定める36協定の範囲内において、派遣労働者に時間外・休日労働を命じうるのです。
- * 労働時間の適用
- ② 安全衛生に関する事項については、設備等の設置・管理、業務遂行上の具体的指揮命令による危険有害作業に関しては原則として派遣先が措置義務を負い、一般健診などの雇用期間中継続的に行うべき事項や雇入れ時等の安全衛生教育については、派遣元の事業主が義務を負います。
- *1 派遣元の事業主と派遣先との連携や派遣労働者に対する安全衛生教育等について、
- ・「派遣元事業主が講ずべき措置に関する指針」(平成 11 年労働省告示第 137 号)
- ・「派遣先が講ずべき措置に関する指針」(平成 11 年労働省告示第 138 号)
- ・「派遣労働者に係る労働条件及び安全衛生の確保について」(平成 21 年3月 31 日付け基発第 0331010 号) にて示されていますので、留意してください。
- *2 労基法などについて、その適用関係を簡単に示せば、次表のとおりです。
- *1 派遣元の事業主と派遣先との連携や派遣労働者に対する安全衛生教育等について、
<労働基準法等の適用関係>
1.労働基準法
派遣元 | 派遣先 |
---|---|
均等待遇 男女同一賃金の原則 強制労働の禁止 労働契約 賃金 1か月単位の変形労働時間制、フレックスタイム制、1年単位の変形労働時間制の協定の締結・届出、時間外・休日労働の協定の締結・届出、事業場外労働に関する協定の締結・届出、専門業務型裁量労働制に関する協定の締結・届出時間外・休日、深夜の割増賃金 年次有給休暇 最低年齢 年少者の証明書 帰郷旅費(年少者) 産前産後の休業 徒弟の弊害の排除 職業訓練に関する特例 災害補償 就業規則寄宿舎 申告を理由とする不利益取扱禁止国の援助義務 法令規則の周知義務労働者名簿 賃金台帳 記録の保存報告の義務 |
均等待遇 強制労働の禁止 公民権行使の保障 労働時間、休憩、休日 労働時間及び休日(年少者)深夜業(年少者) 危険有害業務の就業制限(年少者及び妊産婦等)坑内労働の禁止(年少者) 坑内業務の就業制限(妊産婦等) 産前産後の時間外、休日、深夜業育児時間 生理日の就業が著しく困難な女性に対する措置徒弟の弊害の排除 申告を理由とする不利益取扱禁止国の援助義務 法令規則の周知義務(就業規則を除く) 記録の保存報告の義務 |
2.労働安全衛生法
派遣元 | 派遣先 |
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職場における安全衛生を確保する事業者の責務事業者等の実施する労働災害の防止に関する措置に協力する労働者の責務 労働災害防止計画の実施に係る厚生労働大臣の勧告等 総括安全衛生管理者の選任等 衛生管理者の選任等 安全衛生推進者の選任等産業医の選任等 衛生委員会 安全管理者等に対する教育等 安全衛生教育(雇入れ時、作業内容変更時) 危険有害業務従事者に対する教育中高年齢者等についての配慮 事業者が行う安全衛生教育に対する国の援助 健康診断(一般健康診断等、当該健康診断結果についての意見聴取) 健康診断(健康診断実施後の作業転換等の措置) 健康診断の結果通知 医師等による保健指導医師による面接指導等 健康教育等 体育活動等についての便宜供与等 申告を理由とする不利益取扱禁止 報告等 法令の周知書類の保存等 事業者が行う安全衛生施設の整備等に対する国の援助 疫学的調査等 |
職場における安全衛生を確保する事業者の責務事業者等の実施する労働災害の防止に関する措置に協力する労働者の責務 労働災害防止計画の実施に係る厚生労働大臣の勧告等 総括安全衛生管理者の選任等安全管理者の選任等 衛生管理者の選任等 安全衛生推進者の選任等産業医の選任等 作業主任者の選任等 統括安全衛生責任者の選任等元方安全衛生管理者の選任等店社安全衛生管理者の選任等安全委員会 衛生委員会 安全管理者等に対する教育等 労働者の危険又は健康障害を防止するための措置事業者の講ずべき措置 労働者の遵守すべき事項 事業者の行うべき調査等元方事業者の講ずべき措置 特定元方事業者の講ずべき措置定期自主検査 化学物質の有害性の調査 安全衛生教育(作業内容変更時、危険有害業務就業時) 職長教育 危険有害業務従事者に対する教育就業制限 中高年齢者等についての配慮 事業者が行う安全衛生教育に対する国の補助作業環境測定 作業環境測定の結果の評価等作業の管理 作業時間の制限 健康診断(有害の業務に係る健康診断等、当該健康診断結果についての意見聴取) 健康診断(健康診断実施後の作業転換等の措置) 病者の就業禁止受動喫煙の防止 健康教育等 体育活動等についての便宜供与等快適な職場環境形成のための措置安全衛生改善計画等 機械等の設置、移転に係る計画の届出、審査等申告を理由とする不利益取扱禁止 使用停止命令等 報告等 法令の周知 書類の保存等 事業者が行う安全衛生施設の整備等に対する国の援助 疫学的調査等 |
3.じん肺法
派遣元 | 派遣先 |
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じん肺健康診断の結果に基づく事業者の責務 粉じんにさらされる程度を軽減させるための措置作業の転換 転換手当 作業転換のための教育訓練政府の技術的援助等 申告を理由とする不利益取扱禁止 報告 |
事業者及び労働者のじん肺の予防に関する適切な措置を講ずる責務 じん肺の予防及び健康管理に関する教育じん肺健康診断の実施* じん肺管理区分の決定等* じん肺健康診断の結果に基づく事業者の責務 粉じんにさらされる程度を軽減させるための措置作業の転換 作業転換のための教育訓練政府の技術的援助等 法令の周知* 申告を理由とする不利益取扱禁止 報告 |
4.作業環境測定法
派遣元 | 派遣先 |
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作業環境測定士又は作業環境測定機関による作業環境測定の実施 |
5.雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律
派遣元 | 派遣先 |
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妊娠・出産等を理由とする解雇その他不利益取扱いの禁止 職場における性的な言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置 職場における妊娠、出産等に関する言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置 妊娠中及び出産後の健康管理に関する措置 |
妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いの禁止 職場における妊娠、出産等に関する言動に起因する問題に関する雇用管理上及び指揮命令上の措置妊娠中及び出産後の健康管理に関する措置 |
6.育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律
派遣元 | 派遣先 |
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育児休業、介護休業、子の看護休暇、介護休暇、所定外労働の制限、時間外労働の制限、深夜業の制限、所定労働時間の短縮措置等を理由とする解雇 職場における育児休業、介護休業等に関する言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置 |
育児休業、介護休業、子の看護休暇、介護休暇、所定外労働の制限、時間外労働の制限、深夜業の制限、所定労働時間の短縮措置等を理由とする不利益取扱いの禁止 職場における育児休業、介護休業等に関する言動に起因する問題に関する雇用管理上及び指揮命令上の措置 |
3 派遣労働者に対する使用者責任・安全配慮義務
以上のような労基法などの適用に加えて、派遣労働者を指揮命令して使用しているのは派遣先であることから、この関係においては、派遣先は、派遣労働者が「事業の執行」につき誰かに損害を与えた場合に、使用者責任を負担することになります。また、「特別な社会的接触の関係」に入った者については、安全配慮義務が認められますので、派遣先は、派遣労働者に対して安全配慮義務を負うことになります(三広梱包事件平 5.5.28 浦和地裁判決)。
4 派遣労働者に対する最低賃金の適用
派遣労働者の最低賃金は、派遣先の事業場に適用されている最低賃金(地域別最低賃金若しくは特定(産業別)最低賃金)が適用されます。たとえば、派遣会社が埼玉県で派遣先が東京都であれば、東京都の地域若しくは特定(産業別)最低賃金の適用を受けることになります(平成 21 年 7 月 1 日から)。