Ⅴ 転籍
Ⅴ 転籍
転籍とは、転籍元と転籍先との合意により、転籍元との労働契約関係を終了させて、新たに転籍先との間に労働契約関係を成立させるものです。
ときには転籍出向とか移籍出向とかいわれることがありますが、前述の「出向」が労働契約の一部移転であるのに対し、転籍が全部移転(指揮命令権)であるとし、法的関係を異にするので注意を要します。
裁判例では、転籍命令は就業規則等の規定があるだけではなく労働者の個別の同意が必要とされています(平 4.1.31 東京地裁判決三和機材事件)。したがって、転籍命令を会社が一方的に行うことはできず、労働者がこれを拒否しても処分はできません。他方、関連会社との人事交流が人事体制に組み込まれており、入社時等において関連会社への転籍もあることを労働者が了承しているような事情(包括的同意)のもとでは、改めて合意を得る必要はないとした判決(昭 56.5.25 千葉地裁判決日立精機事件)もあります。
1 労働時間、休日、休暇、賃金等の労働条件
転籍の場合、労働契約関係は完全に転籍先に移転しますので、すべての労働条件は、当然に転籍先で決定されることになります。なお、退職金など転籍に伴い不利益を被る労働者に対して、退職金の割増や転出先で役職につけるよう配慮する措置をとるケースがみられます。
2 会社分割に伴う労働契約の承継
会社分割に伴い労働契約が承継される場合は、労働者が承継される事業に主として従事しているかどうかで、対応が異なります(会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律(以下「労働契約承継法」という。)第3~5条)。なお、会社分割により承継される労働者の労働契約は、会社分割をする会社(分割会社)から承継会社等に包括的に承継されるため、その内容である労働条件はそのまま維持されます。
(1)承継される事業に主として従事する労働者の場合
承継される事業に主として従事する労働者は、分割契約等に労働契約を承継する旨の定めがある場合、本人の同意がなくても承継されます。この場合、労働者から異議の申出はできません。
しかし、承継される事業に主として従事する労働者のうち、分割契約等に労働契約を承継する旨の定めがない者(分割会社に残留する者)については、分割会社に異議を申し出れば、本人の意向に従い、承継会社等に承継されます。
(2)承継される事業に主として従事する労働者以外の労働者の場合
承継される事業に主として従事する労働者以外の労働者は、分割契約等に労働契約を承継する旨の定めがある場合、分割会社に異議を申し出れば、本人の意向に従い、分割会社に残留します。
分割契約等に労働契約を承継する旨の定めがない者は、承継を主張できません。
なお、会社法上、承継される事業に全く従事していない労働者についても、分割契約等に労働契約を承継する旨を定めることによって、承継会社等に承継されます。ただし、当該労働者は、承継される事業に主として従事する労働者に当たらないため、分割会社に異議を申し出ることができ、申出をした労働者は分割会社に残留します。
以上(1)・(2)を図式化すると次のようになります。なお、詳しくは、厚生労働省のHP
(http://www.mhlw.go.jp/general/seido/toukatsu/roushi/dl/01d.pdf)をご参照下さい。
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会社分割の場合に労働契約が承継されるか否かは、従事している事業と分割契約等の定めにより、次のように定まります(労働契約承継法第4条、第5条)。
例:製造部門と小売部門を経営しているP社が小売部門を分割してQ社に継承させる場合
* 労働者Aと分割会社(P社)との労働条件は、そのまま承継会社等(Q社)に承継されることになります。
* 分割契約等 …… 吸収分割の場合は「分割契約」、新設分割の場合は「分割計画」になります。
労働契約の承継 |
3 事業譲渡による転籍
会社分割ではなく、事業譲渡に伴い労働者を転籍させようとするときは、対象となる労働者から個別に同意を得なければなりません(民法 625①)。
また、会社分割の場合と同じく、事業譲渡のみを理由とする解雇や労働条件の不利益な変更はできません。