Ⅱ 募集・採用時の制限と差別の禁止
Ⅱ 募集・採用時の制限と差別の禁止
1 公正な採用選考
労働者を採用選考する上で重要なことは、応募者の適性や能力が求人しようとする職種の職務を遂行できるかどうかだけを基準として行うこと、すなわち、本人に責任のない事項(※1)や本来自由であるべき事項(※2)を採用の条件に加えず、公正・公平に行うことです。
- ※1 次の事項がこれに該当します。
- ① 本籍・出生地に関すること(「戸籍謄(抄)本」や本籍が記載された「住民票(写し)」を提出させることはこれに該当します)。
- ② 家族の職業、続柄、健康、病歴、地位、学歴、収入、資産などに関すること(家族の仕事の有無・職種・勤務先などや家族構成はこれに該当します)。
- ③ 住宅の間取り、部屋数、住宅の種類、近郊の施設などに関すること(「現住所の略図」は生活環境などの把握、身元調査につながる可能性があります)。
- ④ 生活環境や家庭環境に関すること。
- ※2 次の事項がこれに該当します。
- ① 宗教に関すること
- ② 支持政党に関すること
- ③ 人生観、生活信条に関すること
- ④ 尊敬する人物に関すること
- ⑤ 思想に関すること
- ⑥ 労働組合(加入状況や活動歴など)、学生運動など社会運動に関すること
- ⑦ 購読新聞・雑誌・愛読書などに関すること
このため、厚生労働省では企業に、採用選考の際の履歴書は、自社作製のものや応募者本人自筆のものではなく、①一般に市販されているJIS規格の様式例に基づいた履歴書を使用することとし、②応募書類として戸籍謄本(抄本)や住民票などの提出を求めない、③客観的・合理的な必要性がない健康診断は実施しないように指導しています。
2 募集・採用における性差別の禁止
性別を理由として労働者を差別的に取り扱うことは均等法によって禁止されています。すなわち、募集・採用については、「その性別にかかわりなく均等な機会を与えなければならない」(均等法5)とされているほか、配置・昇進・降格・教育訓練、福利厚生、職種及び雇用形態の変更、退職の勧奨・定年・解雇・労働契約の更新についても、「性別を理由として、差別的取扱いをしてはならない」と定められています(同法6)。
なお、性別を理由とする差別に該当するか否かは、指針(「労働者に対する性別を理由とする差別の禁止等に関する規定に定める事項に関し、事業主が適切に対処するための指針」(平成 18 年 10 月 11 日厚生労働省告示第 614 号))で具体的に示されており、特に募集と採用に関しては、次のとおり、「性差別として禁止される事項と具体的事項」、「性差別として禁止されない場合」が示されています。
なお、募集・採用以外のことがらについての性別を理由とする差別的な取扱いの禁止については、「第11章 差別の禁止・ハラスメント対策」を参照してください。
【募集・採用について性差別として禁止される事項と具体的事例】
- (1)募集・採用の対象から男女のいずれかを排除する。
具体的事例:男女のいずれかを表す職種の名称を用いて募集する、「男性歓迎」・「女性向きの職種」等と表示して募集する。 - (2)募集・採用の条件を男女で異なるものとする。
具体的事例:女性についてのみ、「未婚」「子供なし」「自宅通勤」等を条件として募集する。 - (3)能力・資質の有無を判断して採用選考する際に、判断方法や判断基準を男女で異なるものとする。
具体的事例:合格基準が男女で異なる試験を実施する。 - (4)男女のいずれかを優先して募集・採用する。
具体的事例:採用予定人数を男女別に設定(明示)して募集・採用する。 - (5)募集・採用関係情報の提供方法の取扱いを、男女で異なるものとする。
具体的事例:会社概要等の資料の内容や送付時期を男女で異なるものとする。
【募集・採用について性差別として禁止されない場合とその例】
- (1)芸術・芸能の分野で表現の真実性が必要な職務
- (2)守衛、警備員等のうち防犯上男性であることが必要な職務
- (3)宗教上・風紀上・スポーツの競技の性質上その他の業務の性質上、男性又は女性のいずれか一方の性に従事させる必要性があると認められる職務
- (4)労基法の女性労働の制限・禁止により、女性が就業できない場合の男性のみの募集・採用、保健師助産師看護師法の規定により男性が就業できない助産師の女性のみの募集・採用
- (5)風俗・風習等が異なる海外での勤務で男女いずれかが能力を発揮し難い場合その他特別の事情がある場合の、男女どちらかの募集・採用
3 募集・採用における間接差別の禁止
間接差別とは、一見、男女を平等に取り扱っていて性差別がないように見える制度や運用であっても、それが実質的に女性あるいは男性を差別するおそれがある措置をいいます。具体的には、①性別以外の事由を要件とする措置であって、②他の性の構成員と比較して、一方の性の構成員に相当程度の不利益を与えるものを、③合理的な理由がないときに講じることをいいます。均等法では、厚生労働省令で定める3つの措置については、合理的な理由が無い場合間接差別として禁止されています(均等法7)。具体的には、次の措置が定められており(均等則2)、前掲指針(H18.10.11 告示 614)に掲げられている具体例と併せて示すと次のとおりとなります。
なお、募集・採用以外のことがらについての性別を理由とする差別の禁止については、「第 11 章差別の禁止・ハラスメント対策」を参照してください。
【募集・採用等についての間接差別として禁止されている措置とその該当例】
- (1)募集・採用に際して、労働者の身長・体重・体力を要件とする。
例:身長・体重・体力要件を満たしている者のみを対象とする募集・採用で、その要件に合理性がないもの
* 荷物を運搬する職務であっても機械を導入するなどによって、通常の作業には筋力を必要としなくなっているのに、一定以上の筋力を条件とするのは合理的な理由がないとされます。 - (2)募集・採用、昇進・職種の変更に際して、転居を伴う転勤に応じることができることを要件とする。
例:転居を伴う転勤に応じることができることを要件とする募集・採用、昇進・職種の変更で、その要件に合理性がないもの
* 広域にわたり展開する支店、支社等がなく、かつ、支店、支社等を広域にわたり展開する計画等もない場合は、合理的な理由がないとされます。 - (3)昇進に際して、転勤の経験があることを要件とする。
例:転勤の経験があることを要件とする昇進で、その要件に合理性がないもの
* 特定の支店の管理職としての職務を遂行する上で、異なる支店での経験が特に必要とは認められない場合において、当該支店の管理職に昇進するに際し、異なる支店における転勤経験を要件とする場合は、合理的な理由がないとされます。
4 募集・採用における年齢制限の禁止
労働者の募集・採用に際しては、「その年齢にかかわりなく均等な機会を与えなければならない」(労働施策総合推進法 9)として、年齢を制限することが原則として禁止されています。ただし、下記の6項目のうちいずれかに該当する場合に限り、例外的に年齢を制限できることとされています(労働施策総合推進則 1 の 3①)。
- (1)定年年齢を上限として、当該上限年齢未満の労働者を期間の定めのない労働契約の対象として募集・採用する場合
- (2)労基法等法令の規定により年齢が制限されている場合
- (3)若年者等のキャリアを長期勤続によって形成するとの観点から、期間の定めのない労働契約の対象として若年者を募集・採用する場合
- (4)技能・ノウハウを継承するとの観点から、期間の定めのない労働契約の対象として、特定の職種の労働者数が相当程度少ない特定の年齢層に限定して募集・採用する場合
- (5)芸術・芸能の分野で表現の真実性等の要請がある場合
- (6)60歳以上の高年齢者又は特定の年齢層の雇用を促進する施策(国の施策を活用しようとする場合に限る。)の対象となる者に限定して募集・採用する場合