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Ⅲ セクシュアルハラスメント対策

Ⅲ セクシュアルハラスメント対策

 職場におけるセクシュアルハラスメントは、男女を問わず、労働者にとって重大な問題であると同時に、社会的に許されない行為です。

 セクシュアルハラスメントは、いったん起きてしまうと、被害者のみならず行為者も退職にいたるケースも少なくなく、企業内の人間関係をも悪化させてしまうため、企業経営にとっても大きな痛手となる場合があります。

このため、均等法では、事業主に、次のことについて労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備などの雇用管理上の措置を義務付けています(均等法 11)。

  • ① 職場での性的な言動に対する労働者の対応により、その労働者が、労働条件について不利益を受けること(対価型セクシュアルハラスメント)
  • ② 職場での性的な言動により、労働者の就業環境が害されること(環境型セクシュアルハラスメント)

 職場におけるセクシュアルハラスメントには、同性に対するものも含まれます。

 また、相手の性的指向または性自認にかかわらず、該当することがあり得ます。(「ホモ」「オカマ」「レズ」などを含む言動はセクシャルハラスメントの背景にもなり得ます。)以下、セクシュアルハラスメントの考え方、該当事例、事業主が講ずべき措置について説明します。

1 職場におけるセクシュアルハラスメントの内容

(1)職場及び労働者

(職場)
 職場とは、事業主が雇用する労働者が業務を遂行する場所です。労働者が通常就業している場所以外であっても、労働者が業務を遂行する場所であれば職場になります。また、アフターファイブの宴会であっても、実質的に職場の延長線上のものであれば、職場に該当すると考えられます。
【職場の例】
 取引先の事務所、取引先との商談のための会食などの場所、出張先、車中(営業、バスガイドなど)、顧客の自宅(保険外交員など)、取材先(記者)など
(労働者)
 労働者とは、男女を問わず、また、いわゆる正規労働者だけではなく、パートタイム労働者や契約社員などの非正規労働者もすべて対象であり、派遣労働者については、本来の雇用主である派遣元事業主のみならず、派遣先事業主も雇用主と同様に雇用管理上の措置の規定が適用されます。

(2)性的な言動

 性的な言動とは、性的な内容の発言や行動のことです。

【性的な言動の例】
  • ① 性的な内容の発言

     性的な冗談やからかい、食事やデートヘの執拗な誘い、意図的に性的な噂の流布、個人的な体験談を話したり聞いたりすること。

  • ② 性的な行動

     性的な関係の強要、身体への不必要な接触、ヌードポスターやわいせつ図画の配布

(3)対価型セクシュアルハラスメント

 対価型セクシュアルハラスメントとは、職場において行われる労働者の意に反する性的な言動に対するその労働者の対応によって、その労働者が解雇、降格、減給などの不利益を受けることです。

【典型例】
  • ① 事務所内において事業主が労働者に対して性的な関係を要求したが、拒否されたため、その労働者を解雇すること。
  • ② 出張中の車中において上司が労働者の腰、胸等に触ったが、抵抗されたため、その労働者について不利益な配置転換を行うこと。
  • ③ 営業所内において事業主が日頃から労働者に係る性的な事柄について公然と発言していたが、抗議されたため、その労働者を降格すること。

(4)環境型セクシュアルハラスメント

 環境型セクシュアルハラスメントとは、職場において行われる労働者の意に反する性的な言動により、労働者の就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じるなど、その労働者が就業する上で見過ごせない程度の支障が生じることです。

【典型例】
  • ① 事務所内において事業主が労働者の腰、胸等に度々触ったため、その労働者が苦痛に感じて、その就業意欲が低下していること。
  • ② 同僚が取引先において労働者に係る性的な内容の情報を意図的かつ継続的に流布したため、その労働者が苦痛に感じて仕事が手につかないこと。
  • ③ 他の労働者が抗議しているにもかかわらず、事務所内にヌードポスター等を掲示しているため、労働者が苦痛に感じて業務に専念できないこと。

2 事業主が雇用管理上講ずべき措置

 事業主は、企業・事業所の規模や職場の状況にかかわらず、セクシュアルハラスメントを防止するために、次の 4 項目について、措置を講じなければなりません。

(1)事業主の方針の明確化及びその周知・啓発

 職場におけるハラスメントを防止するためには、まず、事業主自身が、職場におけるハラスメントの内容及び職場におけるハラスメントがあってはならない旨の方針を明確にし、これを、管理者を含む労働者に周知・啓発することが重要です。その際、ハラスメントの発生の原因や背景には、性別役割分担意識に基づく言動もあると考えられ、こうした言動をなくしていくことがハラスメントの防止の効果を高める上で重要であることに留意する必要があります。

 方針の明確化、周知・啓発の措置を行っていると認められる例としては、ハラスメントの内容及び職場におけるハラスメントがあってはならない旨を就業規則に規定、あるいは社内報、社内ホームページ等の広報または啓発の媒体に記載、配布することや、研修、講習等を行うといったことが考えられます。

 次に、実際に職場におけるハラスメントに係る性的な言動を行った者については、厳正に対処する旨の方針と対処の内容(懲戒規定)を就業規則等の職場における服務規律を定めた文書に規定し、管理者を含む労働者に周知・啓発することが必要です。

(2)相談・苦情に適切に対応するための体制の整備

 職場におけるハラスメントは、それが発生した場合の対応のみならず、未然の防止対策が重要です。そのためには①相談担当者をあらかじめ決める、②相談に対応するための制度を設ける、③外部の機関に相談への対応を委託する等により相談・苦情窓口を明確にし、労働者が気軽に苦情の申出や相談ができる体制を整えるとともに、相談・苦情に適切かつ柔軟に対応することが必要です。

 また、ハラスメントの形は極めて多様で、判断が微妙な場合やハラスメントに至らなくとも、放置すればハラスメントになるような事例もあります。

 相談・苦情の対象としては、ハラスメントを未然に防止するという観点から、厳密に職場におけるハラスメントでなくとも、その発生のおそれのあるような場合やハラスメントに該当するか否か微妙な場合も幅広く含めるようにしなければなりません。例えば、放置すれば就業環境を害するおそれがある場合や、性別役割分担意識に基づく言動が原因や背景となってハラスメントが生じるおそれがある場合等が考えられます。

(3)職場におけるハラスメントが生じた場合における事後の迅速かつ適切な対応

 職場におけるハラスメントが発生した際、これを放置していたり、対応を誤ったりすると職場環境に悪影響を与え、さらなるハラスメントを誘発しかねません。

 職場におけるハラスメントの再発防止のためにも、その事実関係を迅速かつ正確に確認するとともに、事案に応じて適正に対処することが必要です。その際には、行為者に対する事後対応のみならず、被害者に対する配慮措置を適正に行うことが求められます。具体的な対応としては、被害者と行為者の関係改善に向けた援助、被害者と行為者を引き離すための配置転換のほか、管理監督者や産業保健スタッフ等による被害者のメンタルヘルス不調への相談対応等の措置があります。

(4)プライバシーの保護と不利益取扱いの禁止

 職場におけるハラスメントの相談等にかかる情報は、個人のプライバシーにかかわる情報ですので、事業主には相談者とのプライバシーの保護のために必要な措置が求められます。

 また、ハラスメントについての相談をしたことや事実の確認に協力したことを理由に不利益な取扱いが行われてはならないので、事業主は、社内で不利益取扱いを禁止するとともに、周知・啓発して徹底を図ることが求められます。